発泡酒の増税 
 vol.65
 2003/5/1

 今日から発泡酒が増税になりました。ささやかな市民の楽しみを奪うかのような政策に国民はウンザリ気味です。350ミリリットル缶で10円の増税です。取れるところからとってやろうという政府の無策振り。発泡酒をつくっているビール5社は「発泡酒の税制を考える会」を設立して、増税反対を訴えて活動してきました。発泡酒の税率は、麦芽比率25%未満で350ミリリットル缶当たり36.75円で、ビールの半分弱。低価格を武器に今年上半期には、ビール・発泡酒市場の約3割に達しています。財務省は「ビールとあまり変わらないのに税率に大きな差があるのはおかしい」と税のゆがみを強調していますが、呆れかえるばかりです。
 さらに財務省は、ワインの税率を同じ醸造酒である日本酒(清酒)並みに引き上げるなど、酒税制度全般的についても見直しました。発泡酒、ワインを含め税率引き上げによる増収額は、最大で約2500億円と見込まれています。

 「ビールも発泡酒も同じだから」という理由で発泡酒の税金が上げられましたが、政治家もマスコミもたった9年前のことを忘れようとしています。ここでもういちど発泡酒が日本に登場した背景を知っておく必要があります。94年暮れ、発泡酒を「ホップス」の名で最初に世に出したのは、サントリーです。背景には輸入ビールの急増があり、世間は原料の麦芽の比率をほんの少しだけ落とすことで、世界一高い日本のビール税を免れることを知りました。ホップスの希望小売価格は350ミリリットル缶で普通のビールの225円に対して180円でした。主原料の麦芽の割合を65%に押さえたため、ビール税の適用を外れ、大幅値下げが可能になったのです。サッポロビールはさらに麦芽の比率を25%まで下げて150円という価格を実現しました。今では小売り価格120円台が常識になりました。自販機の清涼飲料とほとんど変わらないのです。
 それまでほとんど酒屋で「定価」で販売していたビール類が値崩れを起こしたのはディスカウント店のおかげです。ディスカウント店は洋酒やビールを手始めに化粧品などの値引き販売に参入。結果として安価な輸入ブランドが街にあふれ、大手企業を震え上がらせたのでした。
 ビール業界では海外の安いビールが日本市場になだれ込み、スーパーのダイエーまでがベルギーのビール会社と提携、小売価格128円などという缶ビールが市場に出回った。当時のビール業界の人々は128円ビールの登場に泡を食った感じでした。「350ミリ缶でビール税が90円近くを占めている。赤字販売だ」と流通業界をなじりました。調べてみると、ビールの輸入価格は、当時、24本入り缶ケース1箱の価格が「6ドル」とか「7ドル」程度で、国内メーカーの工場出荷の半分以下で、輸入ビールの価格圧力は相当なものだったに違いありません。
 サントリーが考えたのは、国内製造でのコストを大胆に切り下げられない以上、酒税の方でなんとかしなければならないということでした。幸い日本の酒税でビールの定義は「原料の麦芽比率が全体の3分の1以上でなければならない」という規定がありました。
 そこで「麦芽料が3分の1以下ならば酒税が各段安い“発泡酒”という分野でビールと同じ品質のものを売り出せる」という目からうろこの逆転の発想にたどり着いたのです。そもそも当時、ドイツ以外にビールの品質規定で「麦芽比率」を設けているところはなく、麦芽比率60%以下のビールも多くあったから、ビールという名前さえ気にしなければ安い“ビール”を世に出すアイデアはいくらでもありました。発泡酒はそんな時代背景から生まれた産物なのです。

 このような基本的背景には急速に進む円高がありました。消費者は円高にもかかわらず物価が一向に下がらないことに不満を募らせていました。その2年前に自民党内閣が崩壊して、細川内閣が誕生したのも実は「変わらない日本」に対する国民の意思表示だったのかも知れません。発泡酒増税は単に1缶当たり20円増税するとか10円に圧縮するべきだと論ずるような問題ではありません。円高が国内の流通に規制を揺さぶり、酒税のあり方をあざわらう「発泡酒」が誕生し、その結果かどうか分かりませんが、キリンの牙城が切り崩され、アサヒビールが国内生産のトップに立ったのです。業界ランキングが逆転した唯一の業界がビール業界ということができます。発泡酒は規制緩和の寵児なのです。小泉首相の人気を支えてきたのは無駄な財政カットであり、そのためならば多少のデフレは我慢しようというまっとうな考え方だったのではないのでしょうか。多くの国民が望んでもいない減税の見返りにたばこや発泡酒を増税するのは小泉内閣の足を引っ張る愚策です。発泡酒人気は、時代に象徴されていると思います。景気によって、高い商品よりも、「安くて良いもの」をみんなが買うようになりました。ユニクロや無印良品の台頭は、不景気によってだと思います。だけど、発泡酒人気に目をつけた政府が、増税をしてしまったのです。増税によって、発泡酒値段が高くなれば、発泡酒人気は下がるでしょう。個人消費が落ち込み、ビール会社は経営悪化へと転化し、リストラ案も浮上してきます。当然、政府に入るカネも減ります。失業率も上がり、景気はますます悪くなる、そんな極論にならなければと発泡酒を飲みながら祈るばかりです。