鳩徳利 
 vol.106
 2005/12/15

 とうとう4日に初雪を観測しました。平年よりも早いのか遅いのか分かりませんが、やはり雪を見ると何となく熱燗の季節なのだと勝手に思ってしまいます。13日の晩に博物館・美術館関係者で忘年会を開催しました。
 酒を燗して飲む風習が始まったのは、記録として最も古いのは万葉集の山上憶良の「貧窮問答歌」の一節に「…すべもなく 寒くしあれば 堅塩を取りつづしろひ糟湯酒 うちすすろいて…」と詠まれています。すでに「酒粕を湯でといて暖をとる」ことが行なわれていたことが分かります。
 また、嵯峨天皇が825年10月、「煖酒」がすすめられ、その美味を激賞されたと伝えられています。延喜式にも、朝廷の公的行事のたびに用意される酒の種類や量と共に「煖酒料炭一斛」などと酒を燗するための炭の支給まで書かれており、9月9日の重陽の節句から3月3日の上巳の節句までの間、燗酒が一つのしきたりとなったことを示しています。

 書斎の棚に小さな徳利を横にしたようなものがあります。徳利の変形版といったものですが、口がやや上を向き、背の部分に持ち手が付いています。鳩が脚をたたんで座っているように見えるので、鳩徳利、鳩燗、ハトカンと呼ばれているものです。 我が家ではその形から尿瓶と勘違いしているものもいるようですが、間違いなく酒燗器なのです。
 酒燗器といえば銅製のちろりを湯煎にかけるのが一番的な印象です。また、「ちろり」は酒がちょろりちょろりと呑口から垂れ落ちるため、「ちろり」と呼ばれたといわれています。日本酒のサービスは昔から優しい思いやりや心づかいが必要とされてきましたが、燗の適温というのも、酒質だけでなく、その人の好みやその時の気温や室温によっても左右されます。どんな器でどの程度に燗をするかによって、酒が引立てられたり、台なしになったりします。
 「燗は人肌」などともいわれますが、文字通りの体温(36度)ではありません。口に含んでふくよかな暖かさを感じる40度までが「人肌の燗」なのです。また40〜45度の燗を「ぬる燗」と呼び、さらに「上燗」は45〜50度です。50度以上の「熱燗」ともなると微妙な酒の風味はわかりにくくなります。とくに吟醸酒などのように、香りと微妙な風味を持つ高級酒は、「ぬるめの燗」にするべきです。上手に燗をすると、内から体があたたまるのはもちろん、冷やにはないふくよかな香りと、滋味あふるるまろやかな味わいが楽しめます。明治の文豪である幸田露伴が良いことを言っています。「酒は心を注げ」、酒は心を注ぐものとは心憎い表現です。