◆ 三重県との県境に位置している奈良県川上村に出掛けてきました。これまでにも何度かお誘いを受けていたのですが、なかなか日程の調整が合わずにおりました。今回は早めに案内を頂きましたので、一泊二日で川上村をたっぷり、そしてゆっくり楽しもうと考えておりました。日本最後の大規模ダムになるかも知れないという大滝ダムの建設、そして湖底となる吉野川流域で繰り広げられる湖底フェスティバル。お世辞にもイベントとしては多くない集客、全体的に華美さのないイベント。県主催の「奈良吉野魅惑体験フェスティバル」の一環としてのイベントと聞きましたが、これを企画したという県の局長さん(?)、いかにも旧自治省から出向している役人の考えるイベントらしく、日本全国変わり映えのないお祭りといった感じでした。来賓挨拶ではごもっともらしい御託を並べていましたが、聞いている人たちはいませんでした。
オープニングコンサートでは日本でただひとりのコカリナ(木でできたオカリナ)奏者の黒坂黒太郎さんと歌手の矢口周美さんの心暖まる調べに感動しました。コカリナとはハンガリーでは一般的な木製の笛で、手のひらサイズの大きさです。木の種類によって様々な音色が出るらしく、桜や楓は素晴らしい美しい音色を奏でてくれます。ダムに沈む湖底の会場は、周囲が深く切り立った渓谷になっており、空を見上げれぱまぶしい青い空が広がり、コカリナの調べは谷を吹き抜ける風となって魅了してくれました。手話を交えながらの「一本の木」は、聞くものにとって心打たれるものでした。この歌に使われたコカリナは広島の陸軍病院にあった榎から作られたものです。爆心地から近いこともあり、病院は壊滅しましたが、真っ黒く焼けた榎の木が1本残りました。それもしばらく前に枯れてしまい、近くの高校で大切に保管されていたそうです。高校生から依頼を受けた黒坂氏は、榎から8本のコカリナを作ることができ、その音色も可憐で哀切な調べを奏でます。被爆した人の嘆きの吐息が鎮魂の詩になり歌になりました。今年で56年目を数えるあの暑い暑い夏が、まもなくやってきます。また聞きたいコカリナ、そしていつまでも感動していたい「一本の木」でした。
◆ 初日、マイクロバスで村内を周遊していただき、村の広さに驚くと同時に、耕地面積の少なさにただただ愕然とするばかり。ダムで沈む土地の代替地があれば、村民もこの村で頑張っていこうという人たちも多いのにと思いながら、複雑な思いで村を去った人たちの話も聞きました。かつては吉野川沿いの急峻な地形に張り付くように家が作られていたのが、今では新しい道路沿いに移転してきた家が多く見られました。特に役場周辺は公共施設が一極集中しており、利用者にとっては有り難いものです。
本当にハード面では驚くばかりです。全国唯一の村営の政府登録国際観光旅館「杉の湯」、入之波温泉「五色湯」、芸術村の「匠の聚」、トントン工作館、山幸彦のもくもく館(川上村林業資料館)、川上村木工センター、ログハウス・フレンド、現在建設中の「森と水の博物館」。この他にも様々なハード事業がみられましたが、いずれも国の施策をうまく活用したものばかりです。次から次に展開するハード事業、そして基本となる「川上宣言」の精神。相反するようにも見えますが、そこは村としての智恵と行動力の賜物です。ややハード事業に偏っているようにも見えますが、ソフト事業も着実に結実しているようですし、今後の大きな課題になっていくものと思います。
◆ その中でも「川上宣言」なるものは、来年度から採用される小学校の教科書にも掲載されるそうです。次のような内容です。
「川上」は水の源、豊かな水が生まれるところ。
雨に恵まれた日本の多くの地域では、その雨を山々が
うけとめ、貯え、川となって暮らしを潤してくれます。
私たちの祖先はその水を田に引くことに始まり、世界に例のないような
巧みな水利用の仕組みをつくってきました。
豊かな水は、まさに豊かな森林が「川上」に保たれてきた所産。
「川上」の人たちにとって、生きることは同時に自然を守ることでした。
巧みに森林を利用し、その価値を生かして自然とつきあい、
林業を通して山と水を守ってきたのです。
けれども、都市が発展し経済成長が続く中で
さらに多くの水が求められるようになりました。
技術を駆使して上流に多くのダムが造られ、
下流主導のかたちで、上流の姿が変えられてきたのです。
世の中がどんどん発展する間、人々は森林の力を軽んじ、
緑のダムの恩恵を忘れていたといえるでしょう。
生活水準が上がり、「川上」の過疎化がすすむ現代。
「川上」では以前のように、
暮らしの中で山と水を守ることが難しくなってきました。
森を育て、山と水を守ることのできる人間の側の新しい仕組みが
今、求められています。これはとても創造を必要とする仕事です。
下流の人たちの参加も必要です。豊かな自然と人々の川上への愛着、
訪れる都市の人たちの自然とのふれあい・・・。
そこから、豊かな国土の保全、さらには地球環境問題への
答えも生まれてくるにちがいありません。
奈良県川上村企画課 樹と水と人の共生 みんなの「川上宣言」より
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◆ 川上村の置かれている様々な厳しい環境を考えると、わが町は本当に頑張ってきたのだろうか。これだけ恵まれた環境の中で暮らしながら本当に意識した施策をとってきたのだろうか。意識の上では完全に全国をリードしている川上村であることがはっきり分かりました。何度もわが町まで視察に来ていただいたにもかかわらず、川上村の現状を知って恥ずかしい思いでいっぱいです。せめて、今からでも努力したいと胸に誓いながら、車を走らせて帰町しました。川上村が発信している魅力は、また21世紀に暮らす私たちに対しての強烈なアピールのようにも感じられます。産業振興課の栗山課長、企画財政課吉野川源流物語執筆室の坂口さん、お世話になりました関係者の皆様、本当にありがとう御座いました。まさに「人が作る村づくり」です。 |