外務公務員に対する信頼感 
 vol.62  2001/5/17

 ゴールデンウィーク中、外務省でお世話になったT氏が遊びに来ました。2年前に本省でお会いして以来です。小さな子供を抱え、初めて在外赴任する不安を払拭してくれるかのように、北京では公私に渡ってお世話になりました。心配りの利いた対応は、ともすればギスギスしがちな外務省の人間関係が心温まるものになりました。T氏のように心ある職員がいる限り、外務省もまだ救われるかも知れないと思うのです。しかし、最近は機密費詐欺事件や在オーストラリア大使館の公金流用疑惑、ロシア課長問題などが一気に表に出てきたという感を呈しています。130年に及ぶ外務省の歴史には表舞台と裏舞台があり、今回は残念ながら裏の姿を垣間見てしまいました。モンゴル関係のMLでも、モンゴル人のビザ取得に関する疑念が取り沙汰されていたり、担当官に対する強い不信感、または外務省のあり方までが問われようとしています。もう少しガラス張りにして誰にも分かりやすいものになればと願っています。

 ちょうど先日の新聞に田中外相が人事案件を凍結したり、外務官僚に激怒した記事が掲載されていました。よくぞ言ってくれたと拍手喝さいです。政治家を利用して外相の足を引っ張ったり、本業の外交そっちのけで内交に明け暮れる外務官僚の本質が国民の目にもよく見えるようになった、と13日の毎日新聞社説で論じられていました。また、一部のマスコミには田中外相の強引な人事凍結方針をめぐり、外相と外務官僚との間に亀裂が広がり、対外関係にも影響が出始めているとも指摘しています。確かに不快感を示した相手側のあったことも事実だと思いますが、それ以上に根深い外務省の体質が問われていることに気づいてほしいものです。8日の記者会見では、「本省では出世競争でサラリーマン。上ばかり見ていて気兼ねばっかり。ポーンと海外に出ると特権階級でふんぞり返ってしまう。外交官はそのギャップで地に足がつかなくなっている。しっかり自己分析した方がいい。」とまで言い切っています。

 僅か3年間の外務省勤務でしたが、たった3年間だけでも充分過ぎるほど様々な外務省内の「特殊な民族」を見せ付けられることになりました。個別の事案まで生々しい話を綴ることはできませんが、それはひどいものです。そんなことを思い出しながら田中外相の一連の発言の裏にあるものがおぼろげながら察することができました。まじめな多くの職員には全く関係ないこととは思いますが、心ない一部職員がいることは事実です。こんな先輩たちの後姿を見て育った若い職員たちは、本省ではおとなしい平々凡々の一般職員ですが、一歩在外に出るとなると目を疑いたくなるようなやりたい放題という図式も理解できるようになります。

 たかだか社会に出て数年の「こわっぱ役人」が、偉そうに見分不相応な態度で対応してきたり、「にわか特権階級」の意識の低さを露呈している若い大使館職員も結構おります。まずは「公務員とは何ぞや」という基本中の基本を学ばさせるべきです。人より語学がやや優秀な程度で外交問題に取組んでいるのが悲劇の始まり。語学を磨くのは当然としても、一緒に人間性をも磨いておかないと任国にも相手にされていないことを肝に銘ずるべきです。

 外務省の暴露本を書いた久家義之氏(元外務省医務官)が指摘するように、大使館員の実態は国際社会で国益を守るという外交官のイメージから程遠いお粗末なものです。ODAの案件が失敗して国益を損じても誰も責任をとらない。外交には競争相手も監視もないから、「武士の商法」的な対応である、と厳しく指摘しています。外務省は、大使館とか外交官というだけで権威が保てた時代は、すでに終わっている事実を知るべきであると結んでいます。これまでにも優れた外交官によって何度も国難を乗り切った時代もあったが、今や事件要人外国訪問支援室長の億単位の官房機密費を横領した事件に代表されるような体たらくな有様です。国民のあずかり知らぬ所で、いったい何が行なわれているのでしょうか?

 確かに外交という仕事は大変だということは事実ですが、一般の仕事と比較して優劣をつけることはできません。自分たちの仕事は国益を守る重要な仕事だと口をそろえて話しますが、実際にはどんな仕事でも楽な仕事なんぞありはしないのです。むしろ一般からみたら、制度や身分は保証されていますし、給与面でも大きな差異があります。給料の話はあまり感心されませんが、私のような「にわか外交官」でさえ、常識の域を出る額でした。ちなみにいつの時か不明ですが、おそらく9年前の給与明細だろうと思いますが、8月分明細書は次の通りになっていました。ちなみに在勤基本手当とは外交官としての必要経費みたいなもので、免税です。この給料に見合った仕事を本当にしていたのかと自問すると、後ろめたさで恥ずかしくなります。当然ながら、大使・参事官・キャリアなどの給料がどんなものか容易に想像できるものと思います。

俸  給 (円) 221700 扶養手当 11000 子女教育手当特別加算 30500
在勤基本手当 510700 配偶者手当 102140 特殊語学手当 61284

 一般サラリーマンと比較しても、30代そこそこの年齢にしてもかなり多い給料になっています。それに見合った仕事をしている職員ばかりではないことがとても残念です。一般にとって外務省の業務内容や、在外公館での実態が必ずしも明確にはなっていないし、不明朗な部分があまりにも多すぎます。一連の外務省不祥事は今に始まったことではなく、古い体質が依然として続いていたことを露見させたようなものです。そろそろ大使館職員は、見えない姿をいつまでも隠していないで、積極的に表に出たらいかがでしょう。自分たちの言動が見られているという緊張感が、在留邦人への対応を真剣にさせると思います。今後は多面的な評価によって問われていく時代が到来するでしょうし、それに対応できない大使館職員には国民として信頼感を寄せることはできません。

 外務省5200人の職員全てが優秀だとは限りません。最近は成果を上げられないヒトは、モノやカネと同列での「不良債権」と呼ぶ人たちさえいます。このご時世に未だ「にわか特権階級」にある職員は「不良債権」として一刻も早く処理していただきたいものだと田中外相に申し上げたい。早く、信頼できる適材適所人事で足場を固め、本格的に外交の舞台に出てほしいと願っています。そして、若干の混乱や抵抗は予想されることですが、将来の大局を含めてこの際、思い切った外務省の改革を考えてほしいものです。「命のビザ」で有名なリトアニア領事だった杉原千畝さんのような外交官は生まれにくい時代なのでしょうか?