| ◆ 4月13日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、イラクの首都バグダッドの陥落直後、市民数千人がイラク国立博物館に押し入り、メソポタミア文明の秘宝を跡形もなく略奪してしまったと報じていました。盗まれたのは黄金の竪琴や金のネックレスなど正確な被害状況は判明していませんが、壊滅的な損失を被ったのは確実です。博物館職員によると、9日のバグダッド制圧後、10日から11日にかけて数千人が押し入ったようです。略奪者らはライフルやピストル、こん棒などで武装。収蔵品を手押し車に積んだり、ポケットに詰め込んだりして逃げたといわれます。
イラク国立博物館で略奪が横行している問題で、文部科学省は、全国の国公私立の博物館や美術館に対して、盗難品を購入しないよう指示することを決めました。都道府県などを通じて通知を出されるようです。今後、ユネスコなどと連携して被害回復に向けた取り組みを進めていくと、遠山文科相が15日の記者会見で表明しています。日本とイラクは文化財の不法な輸出入に関する国際条約の締結国で、イラク側から連絡を受けると文科相が輸入を規制する仕組みになっています。ただ、フセイン政権が崩壊している状況を考慮し、連絡を待たずに注意を呼びかけることにしたそうです。
遠山文科相は「人類の文明を物語る文化財を持ち出すという行為に強い憤りを覚えた」と述べています。
◆ 続いて国連のアナン事務総長は15日、イラク戦争の混乱に伴い、同国の文化財が略奪の被害に遭っていることについて声明を発表、「イラクの文化財は全人類の貴重な遺産で、その喪失は損害だ」と憂慮を表明しました。アナン事務総長は、被害拡大阻止のため早急に必要な措置を取るよう米英両軍に要請。また、イラクの周辺国や国際刑事警察機構(ICPO)、税関当局などに対し、略奪品の密輸防止に向け、国連教育科学文化機関(ユネスコ)と連携するよう呼び掛けました。また、フセイン政権崩壊後のバグダッドで国立博物館などが略奪された問題で、ブッシュ米大統領の諮問機関「文化財諮問委員会」のマルティン・サリバン委員長らが17日までに、米軍が略奪を阻止できなかったことに抗議して辞任していたことが明らかになっています。AP通信などが伝えたもので、辞任したのは、同委員長とゲリー・ビーカン委員、リチャード・ラニアー委員の3人。8年間委員長を務めたサリバン氏らは、米軍は事前に文化遺産が危険にさらされる可能性を警告されていたとしたうえで、「悲劇を阻止できなかったのは、我が国の怠慢が原因」とブッシュ政権を批判しました。こうしたなかで、米連邦捜査局(FBI)のムラー長官は17日の記者会見で、捜査員をイラクに派遣、さらに国際刑事警察機構とも協力して、略奪文化財の行方追及に全力を上げていることを明らかにしています。
◆ 博物館関係者が米ニューヨーク・タイムズ紙に語ったところによると、奪われたのは古代シュメール王朝時代(紀元前3360〜同2000年)の金の琴や首飾りなどの装飾品や、同王朝時代の古代都市の一つでイラク南部のウルで発見された女性の頭像など。同博物館は、約5000年前にチグリス・ユーフラテス川流域に発達した古代四大文明の一つ「メソポタミア文明」の貴重な史料を数多く収蔵しているが、今回の略奪で壊滅的被害を受けた。同博物館には、バグダッド陥落直後、市内が無政府状態になった際、数千人が押し入ったといわれる。暴徒化した市民はガラスケースを割って展示品を持ち出した。さらに博物館内部の収蔵庫も荒らされたことが確認されている。また、本物と模造品を見分けて持ち出すなど、考古学に詳しい専門家が略奪に加わっていた可能性が浮上している。
約30年前からイラクで遺跡発掘に携わる国士舘大イラク古代文化研究所の松本健教授の話によると、オリエントの先史時代からイスラム時代までの文化財が時代ごとに収集展示された世界有数の博物館だった。これだけ大規模な文化財略奪は、近代中東では過去に例がなく、損害は計り知れない。治安回復とともに、税関管理の強化や略奪された収蔵品のリスト作りを急ぎ、流出を防ぐべきだ。
◆ メソポタミアとはふたつのチグリス、ユーフラテスという大河に挟まれた土地を意味します。この地域で栄えたのが世界四大文明の一つメソポタミア文明です。イラクでは、シュメールやアッカド、バビロニアの古代メソポタミア文明に加え、8世紀にバグダッドを首都としたアッバース朝によってイスラム文化が栄えました。イラク国立博物館はメソポタミア文メ化に関して、コレクションの整理や豊富さにおいて、世界有数の存在だといわれます。特にシュメール時代のウル第3王朝の王墓から出土した女王の冠やハープなどが、きわめて貴重な収蔵品として知られています。古代メソポタミア文明やイスラム文明などの遺跡から出土した貴重な文化財が数十万点収められていたはずです。
地域紛争が多発すれば、大事な文化遺産が破壊される可能性も大いにあります。日本が文化国家を掲げるなら、経済力や技術力を使って人類の貴重な遺産を守る、文化による世界平和に貢献することを、一つの使命にすべきではないでしょうか。1970年に制定されたユネスコ条約により、各博物館が新しい物品を購入するときには、不法な手段で入手されたものではないことを確認することになっています。このことを、今こそ再確認する必要があります。
|