モンゴル伝統絵画 
 vol.106  2002/11/12

 モンゴルを代表する画家、ダムディンスレン・ウルタナサン氏(45歳)と弟子のガンジュール・バルスボルド氏(26歳)が二年ぶりに博物館を訪れ、モンゴルの伝統絵画ナクタンを制作しています。チンギス・ハーンの生涯を題材とした縦1.1m×幅6mという大きなキャンバスに仕上げており、当館に寄贈する予定になっています。97、99、00年に続いて4回目の来日ですが、その度に制作した絵画は全て博物館に寄贈してくれており、彼らの代表する絵画の大半を収蔵しています。民主化以降のモンゴル絵画は油彩や水彩を中心としたものが多く、その大半がモンゴルの自然をテーマにしたものです。前衛的、抽象的、技術のないコピー作品が席巻し、伝統絵画の地位が極端に低くなっています。チベット仏教の影響を受けたモンゴルの伝統絵画はナクタン、マルタン、ガルタンなど神経を集中して描かれる細かなタッチが特徴です。今回描いているナクタンはウルタナサン氏が最も得意とする技法で、黒い下地に彩色し、黄色・金色の濃淡で絵を浮き上がらせるという技法です。

 ウルタナサン氏はウランバートル市の芸術専門学校で学び、伝統絵画の道に進みました。社会主義時代には東ドイツで切手のデザイン等を学び、多くの原画を手がけています。切手原画コンクールでは世界グランプリを受賞していますし、外国で個展も開催しています。彼が26歳で描いた「賢妃マンドハイ」は政府買い上げとして近代美術館に展示されていましたが、何者かに盗まれてしまい現在も所在が分かりません。バルスボルド氏はモンゴル芸術大学を主席で卒業した若手芸術家として将来を期待されている一人です。ダルハン市の出身で、弟子を探していたウルタナサン氏が絵の上手な子がいると聞き、中学生だった彼をスカウトして育ててきたというエピソードもあります。
 8月後半に来日し、15日に帰国する予定ですが、この間は朝8時半から夜は10時前後までほとんど休憩もせずに絵を描き続けています。何を考えながら描いているのか聞いたことはありませんが、その集中力たるもの、頭の下がる思いです。この絵も構想から丸二年を費やしており、時代考証や部分的なデザインなども調べ上げ、下絵を描いてからだけでも既に一年が経過しています。観光客の喜ぶような売れる絵は一切描かず、画家としての作品を残したいという気持ちだけで頑張っているようです。普段の生活も思った以上に質素なものです。

 11月11日、モンゴル国立民族音楽団一行5人が来町し、この絵の前で「入魂式」が執り行われました。馬頭琴やモンゴル民謡などで完成を祝ってくれました。この日は一度に高音と低音域の声を出す唱法ホーミーで活躍しているハスバートル氏、人間国宝シャルフーヒンさん(68歳)たちが、チンギス・ハーンを称える歌や13世紀頃のモンゴル国家「エルデニーサイハン」など計3曲を披露してくれました。絵はこの後、中央のチンギス・ハーンの髭を描いて完成。ウルタナサン氏は「モンゴルの歌や馬頭琴で祝ってもらい、こんな嬉しいことはない。モンゴル民族の心を描き込んだ作品に魂が入り、見る人にとって初めて本物の絵となった」と話していました。