◆ 近年はマスコミ関係でモンゴル紹介が相次いでいますが、残念ながらモンゴルの実像が必ずしも正確に伝わっていません。日本人の思考でもってモンゴルを語ろうとしているところに問題が残されている気がします。私たちの歴史は近代に至るまで遊牧はもとより牧畜というものをまったく経験することがなく、遊牧という生活様式は日本人にとっておよそ馴染みのない世界でした。牧畜世界に接することがなかったために、日本人の牧畜に対する理解はきわめて貧困で、草原に家畜を追って移動する「遊牧」や「遊牧民」についての認識は、はなはだ心許ないものがあります。日本人の対遊牧民観や偏見さえ混じっているようにみえます。遊牧は一般に考えられている粗野で非文明的な世界ではありません。そこには伝統文化に根ざした深い営みがあります。海に囲まれた世界と内陸の草原世界とでは、人々の思考や生活の仕方に差異があることは当然のことです。自明のことながら、一つの文化に対する理解、また異国に対する理解というものは、決して生易しく得られるものではありません。ごく普通の当然と思っていた事柄が、国の違いや民族の違いによって、ときには意外に理解しにくいことがあります。
◆ 89年末に始まったモンゴルの民主化政策によって、わが国にとって「近くて遠い国」であったモンゴルが「近くて近い国」に大きく変わろうとしています。遊牧民の生活や風習はかなり異質のものですが、その中には日本と類似した文化も存在しています。もともと文化というものは、一つの国だけのものではありません。こちらからあちらへ、あちらからこちらへと伝わって、それぞれの国に合うように残されていくものです。日本人とは人種的にも近く、文化的にも多くの共通性のあるモンゴルの実生活を自分の目で確かめることによって、日本の文化的、民族的な源流が見つけられるかも知れません。現在のように物質文化が非常に発達した日本においては、そのバランスを取り戻す意味でモンゴル文化の貢献すべき場所があるように思われます。草原における遊牧民の生活がこれまであまり体系的に知られることがなかったのは中央アジアの想像以上の自然環境の厳しさ、それに伴う生活、そして何よりも資料の残りにくい遊牧という生活形態のためであったと考えられます。今回、まず第一義にそのようなモンゴル人の現在までのごく普通の遊牧生活を紹介することを目的としています。遊牧民はどんな生活をし、大草原に暮らす人たちの心は何を見ているのでしょうか。草原を取り巻く自然とそこに生きる遊牧民たちの暮らしと文化に接することにより、地球にやさしい暮らし方を考える上で学ぶべきひとつの芽が必ずや見つけられるはずです。モンゴルへの関心が高まっている折から、タイムリーな事業だと思います。 |