森と砂漠を結ぶ国際シンポジウム 
 vol.5  自然を無駄なくこまやかに活用する独自の能力

 今から10年前、但馬の但東町や、丹波の篠山、東北・北海道の農村調査から出発したゴビ・プロジェクトチームは、1989年、日本とモンゴルの共同による研究調査態勢をととのえ、モンゴルのバヤンホンゴル、ウムヌゴビ両県のゴビ・遊牧地域の調査を開始し、すでに5年間が経過しました。この間、研究調査にとどまらず、日本の農村やモンゴルの遊牧地域の住民とのさまざまな交流が拡大し、深められてきました。これは、私たちのもう一つの大切な財産になりつつあります。

 地域をよりよいものにしたい、という一つの願いに結ばれて、地域住民も研究者も共に考え、地域づくりの実践と研究を続けてきました。こうした海を越えた研究調査や実践の成果と、その試行錯誤の跡をたどりながら、私たちは21世紀への展望を見出していきたいと思っています。

 さて、目を転じて私たちの周囲を見まわすと、実に厳しい情勢がひかえています。地球的な規模で進行している水や大気の汚染、砂漠化や森林の急速な減少など、地球環境の破壊は、いまや全人類的な危機というべき状況に達しています。こうした中で、工業は急速に成長・巨大化して、その日陰になった農業は、現在、農産物輸入自由化の波にさらされ、農業で生きていくすべを奪われています。今、進行している日本の経済不況は、こうした戦後一貫して追求してきた大量生産、大量消費、大量廃棄型の工業優先の経済の在り方や、私たちの生活スタイルに対して、厳しい反省を促していると同時に、その経済の在り方に根本的な転機を迫っているといえます。

 一方、この地球上でもっとも過酷な自然といわれている砂漠と遊牧の国モンゴル、先進工業国日本の中の過疎山村といわれる但馬の但東町。海をへだてた森と砂漠のこの二つの地域では、それぞれ実に不利な生活・生産の環境にありながらも、地道ではあるが、新しい展望を求めて創意と活力にみちた努力が続けられてきました。

 この二つのそれぞれの地域には、自然環境の違いはありますが、それぞれが長い歴史の中で育んできた生活と生産の独自の知恵、すなわち自然を無駄なくこまやかに活用する独自の能力や、自然との調和のとれた「小さな技術」の体系や、特色のある民衆の文化や芸術のつぼみがぎっしりとつまっています。私たちが新しい時代への転換期にさしかかった今、求められているものは、重化学工業時代につくりだされた「大きな技術」の体系ではなく、自然を無駄なく活用するのに適したこうした「小さな技術」の見なおしと、その相互交流による生活や生産の発想の根源的な転換、そこから生み出される新たな創造の力なのです。まさにこの点に、この森と砂漠の二つの地域がお互いに交流し合う今日的意義があるのです。(シンポジウム資料より)