◆ 80年代にモンゴルに赴任していた先輩からアドバイスとして手紙を頂きました。個人的なコメントは差し控えますが、現在のモンゴル事情と比較する上で、面白い話題を提供できると思います。どんな思いで80年代の社会主義国家モンゴルで暮らしていたのか手紙の文中から読み取ることができます。不適切な表現もありますが、原文のまま紹介します。
前略
モンゴル申し送りビデオ拝見させていただきました。ウランバートルの街並みやテレルジ、トーラ川、ザイサントルゴイなど、大変懐かしく感じました。とりわけ大使館や宿舎の内部については、思い出深く見させていただきました。
しかし、懐かしさはこみ上げてくるものの、何か違和感を感じざるを得ないのも事実でした。その違和感というのは、●●ご夫妻のとても伸び伸びとした明るい様子です。少なくとも映像の中では、モンゴルの生活をエンジョイされているようにお見受け致しますし、またそのための基礎である宿舎の広さや家具、家財の豪華さなども充分過ぎるほど整っているようです。お二人の表情には苦しさや哀しさ、または忍耐し続けているような厳しいものはひとかけらも見当たりませんでした。そういったものが感じられないのは不思議な気がしましたし、我々のときとは大分違うという印象を受けました。
二つ目の違和感は、生活水準の違いです。まず、宿舎の広さが違います。2室も使用していますし、しかも家具や食器類は、我々の使っていたものとは全然違います。応接セット、食器棚、ベット、冷蔵庫、下駄箱等々とにかく違いすぎます。もし、このビデオを当時一緒に在勤した大使や参事官、ご家族が見たら絶対に驚くに違いありません。見栄っ張りで、何かというとえらぶリたがったイジメの好きな某夫人などが見たら、腰を抜かしてションベンをちびるかも知れないというくらいに豪華絢爛です。ちなみに我が女房は、なんでこんなに待遇が違うんだとプリプリ怒って、ビデオ見なければ良かったと言っています。
次に医務官の常駐が我々の頃はありませんでした。この違いも大きいものがあります。医務官の不在による巡回診療のための接遇や医薬品の整備等の仕事が不要になりますし、何よりも病気への不安の度合いが違うでしょう。
総じて、全体の印象としては、大使以下の館員の方々が良い人ばかりだからエンジョイしているのだろうと思いましたし、そのような解釈をしなければこの愕然たる相違を理解することはできません。また、時代の趨勢でモンゴルとの外交関係が活発になってきたために、外交活動を円滑にしていくための館員の待遇のレベルアップもあると思われます。
いずれにしても、時間の経過とともに変わるのは当り前ですし、それが良い方向に変わっているのですから喜ぶべきことには違いありません。まして、現在派遣されている方や、これから派遣される金津さんたちが充実した楽しい生活が送れるように土台を作ってきたのですから、本当に良かったと思います。
しかしながら、我々OBが最も心を砕いた土台というのは、前述した生活環境の物質的側面ではありませんでした。それは外務省の方々との人間的な信頼関係の構築でした。
むろん、外務省以外の留学生の方々や文部省派遣の大学の先生、それに現地のモンゴル人の人たちすべてとの関係を信頼の絆で結ぶべく努力したのです。そしてそれはシカゴでも同じことでした。アメリカでは在留邦人の数も多いですから、その範囲も当然広く、多岐に渡っておりました。
では、信頼を勝ち取るためにはどうしたのかと言うと、まず、一生懸命に仕事をしました。早く覚えて確実に正確に、仕事をするように努力しました。次に現地の生活に溶け込むべく、実地の見聞を数多くこなしました。動じに現地の言葉を習得しようという姿勢を最後まで持続しました。それから、人と接するときには努めて明るく、そして謙虚に振舞うよう心がけていました。決して知ったかぶりをしない。分からないことがれば、すぐ聞く。他人の悪口を絶対に言わない。現地の人や環境のこともなるべく悪く言うのは控える。等々、簡単なようでなかなか難しいものです。
人間関係などというものは、ほんの些細な誤解からすぐに崩れてしまうものです。また、人間の心ほど変わりやすく、信じがたいものもありません。まして、我々ごとき一介のサラリーマンが、在外に出て本当に人から信頼されるのは大変なことでした。
最後に、どんなに自分にとって困難なことでも必ず克服してみせることです。最後の最後まで挑戦し続けることです。それが、周囲の人間から絶大な信頼を得るための要だと思います。
ところで●●ご夫妻ばかりでなく、大使館全体の傾向ではありますでしょうが、現地の実情とあまりかけ離れ過ぎることは私は批判的にならざるを得ません。日本人留学生や日本語教師の先生は、ほとんど現地の人間と同様の生活をしているはずですが、それでも彼らは結構楽しく暮らしているはずです。むしろ、その方がずっと得るものが多いと思います。日本や他の先進国から比べればはるかに水準の低い暮らしかも知れませんが、だからといって彼らの精神的生活が貧しいかというと、決してそうではありません。
本当に、その国の生活、自然を満喫し、歴史の一端に触れるためには、自身の生活環境の中における自国の文化は必要最小限の方が良いというのが私の持論であります。つまり、現地の庶民と少しでも同じ苦しみや、哀しさを共感することによって、真実が見えてくるのです。それは、人間や風土や国の違いといったものかも知れませんが、それぞれの長所・短所が本当に見えてくるのです。
それでなくとも、せっかく在外に出たのですから何もできる限りに日本の生活と同じようにしようというのは、どうも私には納得できません。このような考えは私の独善ではなく、各国の在留邦人が在外公館の外務省員に対しての一様に抱いている感慨であるはずです。
かつてモンゴルに抑留されて帰国の夢もむなしく亡くなっていた多くの日本人の方々の悔しさや、従来は日本敵視政策をとっていたのに、状況の変化によって今度はなんとしても日本の協力がほしいという切実な実感や、もっともっと物質的な恩恵に預かりたいというモンゴルの人たちの切なる願いを、自身の魂に感ずるためにはやはり、できるだけそれらの状態に近い環境でなければならないのではないかと思うわけです。他国にあって真に楽しむとは、そういうことではないかと思うのです。ただし、これは私だけの考えです。幼児を抱えた金津さん御一家には、やはり現在の大使館が良いのは言うまでもありません。
ビデオの感想をほんの少し書くつもりでしたが、悪い癖でついつい長々とやってしまいました。どうもクドクドとスイマセン。
さて、金津さんが出発する日も、あと2ヶ月ぐらいに迫っているのでしょうか。たぶんアッという間に過ぎてしまう月日です。どうかその期間をなるべく有意義に、充実して過ごされることを心の底から祈り続けています。
今日の●●は積雪69cmとなりました。明日は大雪注意報が出ています。ちょうど深夜の12時、カーテンを開けて外を覗くと、純白の雪が音もなく降り続いています。●●の冬がこんなに厳しいとは思いませんでした。モンゴルの冬、シカゴの冬もそれぞれに強烈な厳しさではありましたが、●●の豪雪もなかなかすごいものです。
さて、明朝の雪かきのために、私もそろそろ寝床に入ることにします。金津さん御一家のお幸せを願いつつ・・・。(1991.2.6)
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