野菜事情とキノコ狩 
 vol.22  ツァガ−ン・モーグ(白いキノコ)

 人間は歳をとるにしたがって、新しい環境に順応する能力を失っていきます。これは、頭ばかりではなく、体の方も同じことで、慣れない外国生活で一番先にまいってしまうのが、食物の違いです。モンゴルで暮らしている日本人にとって最大の悩みは、野菜が少ないことです。モンゴル人と同じだけしか野菜を食べないで暮らすとしたら、たいていの人は一年ぐらいでまいってしまうでしょう。ウランバートル市内でほぼ常時手に入れることのできる野菜は、小粒のジャガイモ、小さな玉ねぎ、短いニンジン、野生のニンニク、キャベツ程度で、その他は季節によって手に入ったり入らなかったり。トマトやキュウリもありましたが、貴重品でした。冬場はニンジンとキャベツが極端に減ってしまいますので、秋のうちに塩漬けや酢漬けにしておくと保存食にもなり便利でした。年間を通してある果物は、小さなリンゴだけでした。冬から春にかけてミカン、オレンジ、イチゴ、キュウイ、夏から秋にかけて桃やバナナが並ぶこともありました。秋にはブドウとモンゴル産の松の実サマルが出まわります。果物の大半は輸入品ですので、みずみずしい果物はとても望めませんでした。

 そこで、日本人にも屋外で食材が自由に手に入るものといえば、キノコがありました。モンゴルの大草原に食用キノコが生えていることをご存じでしょうか。夏から秋にかけて、各家庭の台所には糸でつながれた乾燥キノコがよくぶら下がっていました。知人の家でご馳走なった肉うどんの中にも乾燥キノコが入っていました。匂いと味は乾燥シイタケに似ており、結構美味しく食べることができました。

 モンゴルは国土の約6割が草原で、年間降水量の60〜70%が夏季にかけて集中して降ります。この季節の平均気温も14〜16度、湿度が70%、土壌含水量が65〜75%というキノコの生育には絶好の環境が整っています。また家畜の糞や枯草などから発酵してできたものがキノコの栄養素となります。モンゴル人の伝統的な食物であるキノコは、日本人の口にも良く合います。しかし、これっばかりはモンゴル人に連れて行ってもらわない限り、毒キノコばかりとってしまう結果になります。広大な草原を眺めていると、白い輪の形をしたものがみられますが、これがモウコシメジと呼ばれるキノコ群です。このシメジは草原の上に菌ができ、毎年、そこから外側に向かって育成場所を移していくため、白い輪はどんどん大きくなり、直径10数メートルにまでなります。モウコシメジそのものは10cm前後で、全体は白く表面は平滑です。時間が経過すると傘の表面に亀裂が生じてきます。モンゴルの人たちはこのモウコシメジをツァガ−ン・モーグ(白いキノコ)と呼んで珍重し、夏から秋にかけてキノコ狩を楽しむ人を草原のあちらこちらで見かけるようになります。ハル・モーグ(黒いキノコ)と呼ばれる食用キノコもありますが、モンゴルの人たちは一切食べません。モウコシメジは炒め物にしたり、そのまま焼いて醤油をかけて食べても結構美味しい。パスタや焼きそばに入れて頂くのもお奨めです。キノコの種類は日本と違うし、味も違いますが、日本人の好みからいっても上等な食物です。