◆ 夏に八戸市と仙台市に住む恩師と友人4人がウランバートルの我が家にまで遊びに来てくれました。たまたま北京出張中だったので、北京で合流してモンゴルへ。私たち家族が赴任したときには、北京から二泊三日43時間もかかる国際列車の旅でしたが、今では北京からウランバートルまでジェット機で僅か2時間あまり。八戸市から盛岡市に車で行く程度です。でも本当のモンゴル旅行を味わいたいのなら、是非とも国際列車の旅をお奨めしたいものです。雄大な中央アジアの雰囲気を必ずや満喫できることでしょう。それに比べ、わが南部衆には忙しいご時世でもあるので、一気にウランバートルまで飛んでもらうことにしました。次回のモンゴルツアーは、騎馬民族ツアーと称して馬で万里の長城を越えてゴビ砂漠を渡ってもらいましょう。
◆ 今回のメンバーにウランバートルで誕生日を迎えた友人がいます。何が悲しくてモンゴルのウランバートルまで来て34才の誕生日を祝わなければならないのかと、ブツブツ話していましたが・・・。そのまま八戸におれば、優しい奥さんと可愛い娘たちに囲まれて楽しい誕生日を祝ってもらえたはずなのに・・・。いくら経済危機のモンゴルといえ、誕生日にはケーキは付きものです。
しかし、モンゴルにはケーキ屋なんぞ、あるわけがありません。すべて特別注文でレストランにお願いしなければなりません。朝一番に注文しても、その日のうちに調達することはまず不可能です。小麦粉も砂糖もバターも、すべて配給制なのです。無理は百も承知していますが、そうと分かれば無理にでもお願いしたくなるのが人間の性。現地スタッフにお願いして、とにかく作ってくれるところを当たってもらいました。片っ端から電話で確認していきましたが、所詮ダメなものはダメなのです。最後の切り札として、モンゴル外務省内のレストランに聞いてもらうことにしました。
ダメでもともとだったのであまり気にもしていなかったのですが、夕方の帰り際にウランバートルでは見たことがないデコレーションケーキを持って現地スタッフたちがニヤニヤと笑っているではありませんか。実に感謝です。それにしてもありがたいものですが、どのように調達してくれたのか不思議でした。まさか何処からか盗んできたわけでもあるまいし、なんとなく不安になってしまいました。スタッフから聞いた話では外務省の担当者に直接話して頼み込んでくれたそうです。かつて、このモンゴル外務省ご用達のケーキを食べれたのは、モンゴル人民革命党の幹部か国家元首に近い人たちしか賞味できなかったという代物です。市内で一般的にみられるケーキは、15センチ前後の変形した楕円形で、情けないほどしかクリームが塗られていないのが普通なのです。今回のケーキは、40センチ角という破格の大きさ、それにバタークリームがたっぷり塗られ、その上に何色かのバラの花が置かれている豪華版です。日本のデパートで売られているものと全く遜色ないものでした。
◆ さて、いよいよケーキを前にして、わが息子たちの「ハッピーバースディーツーユー」の歌声とともに、ロウソクの火を吹き消し、ケーキに入刀。その瞬間、廻りにいた日本人全員の顔が一瞬歪んで見えました。それもそのはずで、ケーキに使ったバターから強烈な匂いがしていました。なかなか思うように口へ運べず、お互いの顔を見合わせているばかりです。どうもバターの種類が違うのか、確かに妙な味と匂いは間違いありません。残念ながら、日本人の口にはとうとう入ることのなかったケーキをモンゴルの友人たちが美味しそうに食べてくれたのが、唯一の救いでした。
日本人の目から見たら、ちっぽけな美味しくないケーキにしか見えなかったかもしれません。でも、このケーキ一つ作るのに、何十人というモンゴルの人たちが動いてようやくできたという彼らの「心」そのものなのです。彼らの言葉を借りれば、わざわざ遠い日本からあなたの大切な恩師や友人が来たというのに、「黙って何もしなかったではあまりにも恥ずかしいではないか」と言うのです。モンゴルのことは、モンゴル人に任せなさい、それが流儀というもの。「人」と「人」の間には言葉が通じなくても、あたたかいもので結ばれていることを教えられた気がします。 |